第5章 仮説検定
統計検定2級の仮説検定(母平均のz検定・t検定と母比率の検定の手順)
統計検定2級の公式出題範囲には、1つの母集団に関する仮説検定として、母平均の検定と母比率の検定が含まれています。検定の計算は、帰無仮説の値と標本の差を標準誤差で割り、臨界値と比べる、という同じ流れで進みます。母標準偏差が既知か未知かで、使う分布が変わります。
このページは、同じ数値で母標準偏差が既知の場合と未知の場合を計算し、結論がなぜ変わるのかを確かめます。最後に母比率の検定も1問計算します。
この記事の目次
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結論
- 検定統計量は (標本平均 − 帰無仮説の値) ÷ 標準誤差。母標準偏差が既知ならz、未知ならtになる
- 両側5%のzの臨界値は1.96、tの臨界値は自由度n−1で決まり、1.96より大きい
- 同じ数値でも、zでは棄却され、tでは棄却できないことがある
- 母比率の検定は z = (p̂ − p0) ÷ √(p0(1−p0)÷n)。標準誤差には帰無仮説の比率p0を使う
- 「棄却できない」は「帰無仮説が正しい」とは違う
検定の5ステップ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 仮説を立てる | 帰無仮説H0(例: 母平均 = 50)と対立仮説H1(例: 母平均 ≠ 50)を決める |
| 2. 有意水準を決める | 多くは5%。帰無仮説が正しいのに棄却してしまう確率の上限 |
| 3. 検定統計量を計算する | (標本平均 − 帰無仮説の値) ÷ 標準誤差。母標準偏差が既知ならz、未知ならt |
| 4. 臨界値と比べる | 両側5%なら、zは1.96、tは自由度n−1の臨界値と、統計量の絶対値を比べる |
| 5. 結論を述べる | 超えれば「帰無仮説を棄却する」、超えなければ「棄却できない」(正しいと証明したわけではない) |
一次資料: 統計検定センター「統計検定2級 出題範囲」、NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods
母標準偏差が既知のとき(z検定)
NISTの母平均の検定例は、母標準偏差σが長年の記録から既知だと仮定し、検定統計量 (標本平均 − 帰無仮説の値) ÷ (σ ÷ √N) を標準正規分布の分位点と比べて、棄却するかどうかを判断しています。
計算例です(このページの架空のデータです)。帰無仮説を「母平均は50」、対立仮説を「母平均は50ではない」とします。25個の標本の平均が52で、母標準偏差は5と分かっているとします。標準誤差は 5÷√25 = 1 なので、z = (52 − 50) ÷ 1 = 2 です。両側5%の臨界値1.96より大きいので、帰無仮説を棄却します。
母標準偏差が未知のとき(t検定)
母標準偏差が分からないときは、標本から求めた標本標準偏差sで置き換えます。1標本のt検定の統計量は t = (標本平均 − 帰無仮説の値) ÷ (s ÷ √n) で、自由度はn−1です。
上の例の数値のまま、5が母標準偏差ではなく標本標準偏差だったとします。t = (52 − 50) ÷ (5 ÷ √25) = 2、自由度は25−1 = 24 です。NISTのt分布表では、両側5%(上側確率0.025)の臨界値は自由度24で2.064です。2は2.064を超えないので、5%の有意水準では帰無仮説を棄却できません。
| 場合 | 検定統計量 | 両側5%の臨界値 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 母標準偏差5が既知 | z = (52−50)÷(5÷√25) = 2 | 1.96 | 2 > 1.96 なので棄却する |
| 標本標準偏差5(母標準偏差は未知) | t = (52−50)÷(5÷√25) = 2 | 2.064(自由度24) | 2 < 2.064 なので棄却できない |
統計量は同じ2でも、t分布の臨界値は標準正規分布の1.96より大きいため、結論が変わりました。信頼区間でも確かめられます。母標準偏差が既知なら 52 ± 1.96×1 = 50.04 〜 53.96 で、50は外側にあります。計算方法は信頼区間の計算手順で確認できます。
母比率の検定
NISTは、大標本の1標本母比率検定で、標本比率をp̂、帰無仮説の比率をp0、標本サイズをnとして、z = (p̂ − p0) ÷ √(p0(1−p0)÷n) を検定統計量にします。正規近似の目安の一つは、np0 と n(1−p0) の小さいほうが5以上であることです。
計算例です。帰無仮説を「母比率は0.5」とし、100人中40人が「はい」と答えたとします。p̂ = 0.4、np0 = 50 で目安を満たします。標準誤差は √(0.5×0.5÷100) = 0.05 なので、z = (0.4 − 0.5) ÷ 0.05 = −2 です。絶対値2は1.96より大きいので、両側5%で帰無仮説を棄却します。信頼区間のときは標準誤差にp̂を使いましたが、検定では帰無仮説が正しいと仮定してp0を使います。
2種類の誤りと対立仮説
NISTは、帰無仮説が真のときにこれを棄却する確率を第1種の過誤の確率として有意水準αで表し、帰無仮説が偽のときに棄却できない確率を第2種の過誤の確率βとしています。偽の帰無仮説を正しく棄却する検出力は 1−β です。
対立仮説は、母平均が帰無仮説の値と異なる両側、帰無仮説の値より大きい上側、帰無仮説の値より小さい下側の3通りに分かれます。両側検定では両方の裾に等しい確率を置き、その合計をαにするため、基準はα/2に基づきます。そのため同じ有意水準でも、片側検定の臨界値のほうが小さくなります。それぞれの違いは第1種の誤りと第2種の誤りの比較、片側検定と両側検定の比較、帰無仮説と対立仮説の比較で詳しく確認できます。検定の種類を選ぶ段階で迷うときは検定の選び方も参考になります。
問題文から読み取る
問題文の言い回しから、使う検定を決められます。このページの計算例から導いた読み方で、出題を予想するものではありません。
- 「母標準偏差は5とする」「母分散が既知」なら、標準正規分布を使うz検定
- 「標本標準偏差は5」「不偏分散から」なら、自由度n−1のt検定
- 「割合」「比率」「n人中x人」なら、母比率の検定(標準誤差にp0を使う)
- 「変化したか」なら両側、「増えたか」「減ったか」なら片側
- 「棄却できない」を「差がないことが証明された」と言い換えた選択肢は誤り
統計検定2級の学習に使う書籍(Amazon)
試験範囲を通して読むときの1冊です。読んだ章は、このサイトの章別問題で確かめられます。
よくある質問
仮説検定は、統計検定2級の公式出題範囲にありますか?
あります。統計検定センターの2級の出題範囲表は、1つの母集団に関する仮説検定として母平均の検定と母比率の検定を含み、2つの母集団の比較として母平均の差、母比率の差、分散の比、対応のあるデータと対応のないデータも挙げています。
検定で「棄却できない」とき、帰無仮説は正しいと言えますか?
言えません。棄却できないのは、データから帰無仮説を否定する十分な根拠が得られなかったということです。このページの例でも、母標準偏差が未知のときは棄却できませんが、母平均が50だと証明されたわけではありません。
同じ数値なのに、zとtで結論が変わるのはなぜですか?
母標準偏差を標本から推定するぶん不確かさが増え、t分布の臨界値が標準正規分布の1.96より大きくなるためです。NISTのt分布表では、両側5%の臨界値は自由度24で2.064です。統計量が同じ2でも、2.064のほうは超えません。
信頼区間と検定は、どう結びつきますか?
母標準偏差が既知の母平均の両側検定では、帰無仮説の値が対応する信頼区間の外側にあれば帰無仮説を棄却します。このページの例では、95%信頼区間が 50.04 〜 53.96 で、帰無仮説の50が外側にあるため棄却されます。
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