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第4章 標本分布と推定

統計検定2級の大数の法則とチェビシェフの不等式

統計検定2級の公式出題範囲の標本分布には、チェビシェフの不等式、大数の法則、中心極限定理が並んでいます。チェビシェフの不等式は「少なくとも何%」を出す式、大数の法則は「データを増やすと平均が近づく」という法則です。

このページは、平均50・標準偏差12の例で下限を計算し、標本平均に使うとデータ数が増えるほど下限が上がる様子を確かめます。

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結論

  1. チェビシェフの不等式 = 平均μ・標準偏差σが有限なら、平均からkσ未満に入る確率は少なくとも1−1/k²
  2. 下限は分布の形を問わない代わりに保守的で、正確な確率ではない
  3. 有用なのはk>1のときだけ
  4. 大数の法則 = 観測数が多いとき、標本平均が期待値に近づく
  5. 中心極限定理 = 標本サイズが大きいと、標本平均の分布が近似的に正規分布になる

チェビシェフの不等式

Wikipediaは、確率変数Xが平均μから標準偏差のk倍以上ずれる確率は、せいぜい1/k²であると説明しています。余事象で言い換えると、次の形です。

  • P(|X−μ|≥kσ)≦1/k²
  • P(|X−μ|<kσ)≧1−1/k²(平均からkσ未満に入る確率の下限)

この式の強みは、正規分布かどうかを知らなくても使えることです。代わりに、答えは「少なくとも」という下限で、実際の確率はもっと大きいのが普通です。用語はチェビシェフの不等式の用語集にあります。

下限の計算例

平均50、標準偏差12の分布(形は不明)で、範囲ごとの下限を求めます。右の列は、同じ範囲を正規分布と仮定した場合の確率で、比べるための参考です。

範囲kチェビシェフの下限正規分布なら
平均±1.5σ(32〜68)1.51−1/2.25=5/9≒0.556約0.866
平均±2σ(26〜74)21−1/4=0.75約0.954
平均±3σ(14〜86)31−1/9=8/9≒0.889約0.997

手順は2段階です。まず範囲の幅を標準偏差で割ってkを出し(32〜68なら平均から18離れているので18÷12=1.5)、次に1−1/k²に代入します。下限が正規分布の確率よりずっと小さいのは、分布の形を仮定しない分だけ安全側に見積もっているからです。

標本平均に使うと

NBS Special Publication 747は、独立な測定値の母分散をσ²、標本サイズをnとすると、標本平均の分散はσ²/n、標準偏差である標準誤差はσ/√nと説明しています。標本平均もひとつの確率変数なので、チェビシェフの不等式を同じ形で使えます(この適用は、このページでの導出です)。

例です。母平均50、母標準偏差12の母集団で、標本平均が50から±4以内に入る確率の下限を、標本サイズ別に求めます。

標本サイズn標準誤差k(±4÷標準誤差)下限
3612÷6=24÷2=20.75
14412÷12=14÷1=41−1/16=0.9375

nが36から144に増えると標準誤差が半分になり、±4以内に入る確率の下限が0.75から0.9375に上がります。標準誤差の計算は中心極限定理と標準誤差のページでも確認できます。

大数の法則

Wikipediaは、大数の法則を、繰り返し試行の平均が期待値へ収束する法則と説明しています。サイコロの目の期待値は(1+2+3+4+5+6)÷6=3.5で、振る回数が増えるほど、出た目の平均が3.5に近づきます。

上の標本平均の表は、この法則の中身を数字で見たものです。標準誤差がσ/√nで小さくなるので、nが増えるほど、標本平均が母平均の近くに入る確率の下限が上がります。Wikipediaは、チェビシェフの不等式が、大数の法則(弱法則)の証明に使えるとも述べています。

近づくのは「多数回の平均」であって、少数回の偏りが後で取り返されるわけではありません。Wikipediaは、この誤解をギャンブラーの誤謬として挙げています。標本平均が母平均に近づく性質は、推定量の一致性とも結びついています。

3つの定理の違い

NISTは、中心極限定理を、標本サイズが大きくなると標本平均の標本分布が元の分布によらず近似的に正規分布となる、と説明しています。3つが述べることを、表にまとめます。

名前述べていること答えの形
チェビシェフの不等式平均から標準偏差のk倍未満に入る確率の下限(分布の形は問わない)「少なくとも1−1/k²」
大数の法則観測数が多いと、標本平均が期待値に近づく近づくという方向
中心極限定理標本サイズが大きいと、標本平均の分布が近似的に正規分布になる正規分布での確率の近似値

下限だけ欲しいならチェビシェフ、近づく向きなら大数の法則、確率の近似値を出すなら中心極限定理です。2つの法則の比較は大数の法則と中心極限定理の違いのページにもあります。

間違えやすい点

取り違えを、このページの例で4つ挙げます。

  • 下限を正確な確率として答える: 2σ以内の0.75は「少なくとも」で、正規分布なら約0.954です。
  • k≦1に使う: 平均±1σ以内は1−1/1=0で、何も言えません。
  • kを出さずに式へ入れる: 範囲32〜68はkσの幅が18なので、k=18÷12=1.5と先に求めます。
  • 標本平均の問題で、母標準偏差をそのまま使う: 標本平均の標準偏差は標準誤差σ/√nです。n=36なら12ではなく2です。

「少なくとも」と「分布の形は不明」が見えたら、チェビシェフを疑います。

問題文から読み取る

問題文の言い回しから、使う定理を選べます。このページの整理から導いた読み方で、出題を予想するものではありません。

  • 「分布の形は分からないが、平均と分散は分かっている。少なくとも何%」とあれば、チェビシェフの不等式
  • 「平均から2標準偏差以内」とあれば、k=2として下限0.75
  • 「標本サイズを大きくすると標本平均は母平均に近づく」とあれば、大数の法則
  • 「標本サイズが大きいとき、標本平均が〜を超える確率」とあれば、中心極限定理で標準化
  • 「標本平均の分散」とあれば、σ²/n

よくある質問

統計検定2級の出題範囲に、大数の法則とチェビシェフの不等式は入っていますか?

入っています。統計検定センターの2級出題範囲表は、標本分布の項目に、独立試行、標本平均の期待値・分散、チェビシェフの不等式、大数の法則、中心極限定理、二項分布の正規近似、連続修正、母集団、母数を挙げています。

チェビシェフの不等式は、どんな分布にも使えますか?

平均と標準偏差が有限であれば、分布の形を問わず使えます。Wikipediaは、平均から2標準偏差以内に少なくとも75%、3標準偏差以内に少なくとも88.88%が入ると説明しています。分布の形を仮定しない代わりに、下限は保守的で、正確な確率ではありません。

k=1のとき、チェビシェフの不等式は何を教えてくれますか?

何も教えてくれません。1−1/k²はk=1で0になり、「少なくとも0%」という自明な結論になります。Wikipediaも、有用なのはk>1の場合だけと説明しています。

大数の法則とは、少し偏りが出たら後で相殺されるという意味ですか?

違います。Wikipediaは、大数の法則を、観測数が多いときに標本平均が期待値へ近づく法則と説明し、少数の観測が期待値に一致する、偏りが後で相殺されるという原理はないとしています。サイコロで6が続いても、次の目の確率は変わりません。

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執筆: ミナト編集部(運営者情報を見る)