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第4章 標本分布と推定(点推定)

有限母集団修正とは(標本が母集団の5%以上のときの標準誤差の補正)

統計検定2級の出題範囲表の推定の項目には、点推定、推定量と推定値に並んで「有限母集団」の語があります。母集団の大きさが決まっていて、そこから戻さずに取り出すときは、標準誤差に補正の係数を掛けます。

このページは、その係数 √((N−n)/(N−1)) の意味と使う場面を、数値の例で最後まで計算して整理します。なお、範囲表は語を挙げているだけで、どの式が問われるかまでは示していません。

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結論

  1. 有限母集団修正の係数は √((N−n)/(N−1))。N は母集団の大きさ、n は標本の大きさ
  2. 補正後の標準誤差 = 通常の標準誤差 × この係数
  3. 戻さずに取り出す(非復元抽出)ときに使う。復元抽出なら不要
  4. 標本比率 n/N が約5%以上なら補正するのが目安。小さければ補正しなくてよい
  5. n = N(全数調査)なら係数は0で、標準誤差も0

有限母集団と無限母集団の違い

標本平均の標準誤差 σ/√n は、母集団が非常に大きい(無限と見なせる)か、取り出した要素を戻す復元抽出であることを前提にした式です。中心極限定理のページで扱う式も、この前提です。

母集団の大きさ N が決まっていて、戻さずに取り出すと、1個取り出すたびに残りの母集団が小さくなります。母集団の大きな割合を調べるほど、母集団について分かる部分が増えるため、標本平均のばらつきは通常の式より小さくなります。Wikipediaの「Standard error」は、この場面で標準誤差に有限母集団修正(FPC)を掛けると説明し、式を √((N−n)/(N−1)) としています。

標本の大きさと母集団の大きさの比 f = n/N は標本比率と呼ばれます。補正が効くかどうかは、この f の大きさで決まります。

計算例:母集団500・標本100

計算例です(このページの架空のデータです)。社員500人の通勤時間を調べるために、100人を戻さずに無作為抽出したところ、標本の標準偏差が s = 15(分)だったとします。標本平均は50分とします。

  1. 標本比率:100 / 500 = 0.2(20%)。5%を大きく超えるので補正する
  2. 通常の標準誤差:15 / √100 = 1.5
  3. 補正係数:√((500−100)/(500−1)) = √(400/499) ≒ 0.8953
  4. 補正後の標準誤差:1.5 × 0.8953 ≒ 1.343
  5. 95%の誤差の幅:1.96 × 1.343 ≒ 2.63(補正しないと 1.96 × 1.5 = 2.94)

補正すると、標準誤差は1.5から約1.34に縮み、95%の区間は50 ± 2.94から50 ± 2.63に狭くなります。補正を忘れると、区間を実際より約1割広く見積もることになります。区間の作り方そのものは信頼区間の求め方で確認できます。

Wikipediaには、Nが大きいとき係数が √(1−n/N) にほぼ等しいという近似も載っています。この例では √(1−0.2) = √0.8 ≒ 0.8944 で、厳密な値0.8953との差は0.001未満です。

標本比率と補正係数の対応

母集団が N=500 のとき、標本の大きさごとの補正係数は次のとおりです。

標本の大きさ n標本比率 n/N補正係数 √((N−n)/(N−1))
255%0.976
5010%0.950
10020%0.895
25050%0.708
500100%0

標本比率が5%でも係数は約0.976、標準誤差が約2.4%縮む程度です。半分の250人を調べると約0.708まで下がり、全員の500人を調べると0になります。Wikipediaも、標本の大きさが母集団の大きさに等しいと誤差がゼロになると述べています。

表の n=250 を、先ほどの s=15 の例に当てはめます(架空のデータです)。通常の標準誤差は 15 / √250 ≒ 0.949、補正後は 0.949 × 0.708 ≒ 0.671 です。95%の誤差の幅は、補正しないと 1.96 × 0.949 ≒ 1.86、補正すると 1.96 × 0.671 ≒ 1.32 になり、約3割狭くなります。標本比率が大きいほど、補正の有無で区間の幅が大きく変わります。

補正しなくてよい場合

母集団が1万人で100人を取り出す場合、標本比率は1%です。係数は √(9900/9999) ≒ 0.995 で、標準誤差は0.5%ほどしか変わりません。Wikipediaも、標本比率が小さいときは有限と無限の差が小さく、実務では母集団をほぼ無限と見なして補正しないことが多いと説明しています。

復元抽出の場合も補正しません。同じ要素を何度でも選べる設定では、母集団の大きさに関係なく標準誤差は σ/√n のままです。補正の要否は、抽出の仕方と標本比率の2つで決まります。

もう1つの区別が、調べる対象です。Wikipediaは、今ある有限の集団そのものを測りたい調査(列挙的研究)では標本比率が大きいときに補正が必要だと述べています。一方、いま手元にある有限の集団を生み出した過程の性質を調べたい調査(分析的研究)では、母集団を無限と見なした通常の式がよく使われると説明しています。社員名簿のように大きさが決まった集団そのものを調べる問題では補正を考える、という見分け方になります。

問題文から読み取る

問題文の言い回しから、確かめる点を決められます。このページの計算例から導いた読み方で、出題を予想するものではありません。

  • 「N 人の名簿から n 人を無作為に選ぶ」「戻さずに」とあれば、非復元抽出で修正の対象
  • 「母集団は十分大きい」とあれば、補正は不要(通常の σ/√n を使う)
  • 補正係数に N−1 を使う式か N を使う式かは、問題文の与えた式に従う
  • 補正すると標準誤差は小さくなる。大きくなる選択肢は誤り
  • 全数調査(n=N)で誤差が残るとする選択肢は誤り

よくある質問

有限母集団修正は、いつ使いますか?

母集団の大きさ N が決まっていて、そこから戻さずに取り出す(非復元抽出)とき、標本比率 n/N が大きい場合に使います。Wikipediaは目安として約5%以上を挙げています。

復元抽出なら修正は必要ですか?

必要ありません。Wikipediaは、復元抽出なら有限母集団修正は関わらないと説明しています。同じ要素を何度でも選べるので、母集団の大きさに関係なく標準誤差は σ/√n のままです。

n と N が等しいとどうなりますか?

補正係数が0になり、標準誤差も0です。母集団を全部調べる(全数調査)ので、標本平均がそのまま母平均になり、推定の誤差が残らないためです。

(N−n)/(N−1) と (N−n)/N のどちらですか?

Wikipediaが示す式は √((N−n)/(N−1)) です。Nが大きければ √(1−n/N) とほぼ同じ値になり、このページの例(N=500・n=100)でも0.8953と0.8944で差は0.001未満です。問題文に式が与えられていれば、それに従ってください。

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執筆: ミナト編集部(運営者情報を見る)