第5章 仮説検定
統計検定2級の分散の比の検定(F検定)
統計検定2級の公式出題範囲には、2つの母集団の比較として分散の比があります。このページは、2つの母分散が等しいかを調べるF検定を、数字の小さい計算例で最後まで解きます。2つの標本分散の比をFとして、自由度で決まるF分布の臨界値と比べる検定です。
データはすべて架空です。標本Aは6件、標本Bは6件、標本Cは5件で、平均はどれも7にそろえてあります。
この記事の目次
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結論
- 帰無仮説は「2つの母分散が等しい」
- 検定統計量は F = 標本分散1 ÷ 標本分散2
- 自由度は、分子が(件数−1)、分母が(件数−1)の2つ
- FがF分布表の臨界値より大きければ、帰無仮説を棄却する(片側検定)
- Fが1から離れるほど、母分散が等しくない証拠が強い
検定の手順
NISTのハンドブックは、F検定の帰無仮説を「2つの母分散が等しい」、検定統計量を2つの標本分散の比と定義しています。標本分散は、偏差の2乗和を「件数−1」で割った不偏分散です。次の表は、計算例で使う3つの標本をまとめたものです。
| 標本 | データ | 平均 | 偏差の2乗和 | 標本分散 |
|---|---|---|---|---|
| 標本A(6件) | 2, 4, 6, 8, 10, 12 | 7 | 70 | 14 |
| 標本B(6件) | 5, 6, 7, 7, 8, 9 | 7 | 10 | 2 |
| 標本C(5件) | 4, 5, 7, 8, 11 | 7 | 30 | 7.5 |
標本Aの偏差は −5, −3, −1, 1, 3, 5 で、2乗和は 25+9+1+1+9+25=70、標本分散は 70÷5=14 です。標本Bの偏差は −2, −1, 0, 0, 1, 2 で、2乗和は10、標本分散は 10÷5=2 です。標本Cの偏差は −3, −2, 0, 1, 4 で、2乗和は30、標本分散は 30÷4=7.5 です。用語はF検定と分散の比の用語集にあります。
計算例1:棄却される場合
「標本Aの母分散は標本Bの母分散より大きいか」を、有意水準5%の片側検定で調べます。帰無仮説は「2つの母分散が等しい」、対立仮説は「Aの母分散のほうが大きい」です。
- F = 14 ÷ 2 = 7
- 自由度:分子 6−1=5、分母 6−1=5
- F分布表(片側5%)の分子の自由度5・分母の自由度5の臨界値は5.050
- 7 は 5.050 より大きいので、帰無仮説を棄却する
F=7が臨界値5.050を超えるので、5%水準で「Aの母分散のほうが大きい」といえます。臨界値は、NISTのハンドブックの片側検定用のF分布表(5%)から読みました。
計算例2:棄却されない場合
同じ標本Aと、5件の標本Cを比べます。標本分散は 14 と 7.5 で、標本Aのほうが大きく見えますが、件数が少ないと差が偶然の範囲に収まることがあります。
- F = 14 ÷ 7.5 ≒ 1.87
- 自由度:分子 6−1=5、分母 5−1=4
- F分布表(片側5%)の分子の自由度5・分母の自由度4の臨界値は6.256
- 1.87 は 6.256 より小さいので、帰無仮説を棄却できない
棄却できないことは、2つの母分散が等しいと証明されたことではありません。この件数のデータでは、分散に差があるとはいえなかった、という結論です。表を引くときは、分子の自由度を列、分母の自由度を行で探します。引き方は統計数値表の見方のページにもあります。
分子と分母を入れ替えるとどうなるか
標本Aと標本Bの順を入れ替えると、F は 2 ÷ 14 ≒ 0.14 になり、1より小さくなります。上側の片側検定は「Fが大きい」ときに棄却するので、この順では棄却されません。対立仮説で「大きい」と主張したい側を分子に置くと、棄却の判断を取り違えません。
もう1つ、自由度が臨界値に与える影響も確かめておきます。同じ分子の自由度5で、分母の自由度が4から5に増えると、5%の臨界値は6.256から5.050に下がります。件数が増えると標本分散の信頼度が上がり、同じ比でも棄却しやすくなります。計算例2で棄却できなかったのは、標本Cが5件と少なかったことも一因です。
片側と両側の違い
NISTのハンドブックは、F検定の対立仮説を3通り示しています。分散が小さい(下側)、大きい(上側)、等しくない(両側)です。上側の片側検定では F がα水準の上側臨界値を超えたとき、両側検定ではα/2の水準の臨界値と比べます。
F分布は左右対称ではないため、両側検定には下側と上側の棄却域を示す別の表が必要だと、NISTの表のページは述べています。このページの計算例は、上側の片側検定です。母分散が等しいかを調べる場面でF検定を使うことは、2標本t検定のページでも触れています。
問題文から読み取る
このページの計算例から導いた読み方です。出題を予想するものではありません。
- 「2つの母分散が等しいか調べる」とあれば、標本分散の比を使うF検定
- 「自由度(5, 4)のF分布」とあれば、分子の自由度が5、分母の自由度が4
- 「標本分散の比が臨界値より大きい」とあれば、帰無仮説を棄却する側
- 「棄却できなかった」を「分散が等しいと示された」と読み替えている選択肢は誤り
統計検定2級の学習に使う書籍(Amazon)
試験範囲を通して読むときの1冊です。読んだ章は、このサイトの章別問題で確かめられます。
よくある質問
分散の比の検定は、統計検定2級の出題範囲にありますか?
あります。統計検定センターの2級の出題範囲表は、2つの母集団の比較に母平均の差、母比率の差、分散の比を挙げ、統計数値表の活用としてF分布も挙げています。
F統計量は、どちらの分散を分子にしますか?
NISTのハンドブックは、F = 1つ目の標本の標本分散 ÷ 2つ目の標本の標本分散と定義しています。対立仮説が「1つ目の母分散のほうが大きい」なら、1つ目を分子に置きます。
自由度は、どちらの標本の件数から決めますか?
分子の標本の件数−1が分子の自由度、分母の標本の件数−1が分母の自由度です。NISTのハンドブックも、臨界値を N1−1 と N2−1 の自由度のF分布から取ると説明しています。
Fの値が1に近いと、どう読みますか?
NISTのハンドブックは、この比が1から離れるほど、母分散が等しくないという証拠が強いと述べています。1に近ければ、2つの標本分散にほとんど差がありません。たとえば標本分散が同じ7.5どうしならFはちょうど1で、臨界値には届きません。
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